防音対策をするときに、一番はじめに知っておきたいことは、音の発生源によって防音対策は違うということです。
自分が騒音を出す側の防音対策としては、騒音を出す種類によって「吸音」、「遮音」、「防振」、「制振」の防音対策があります。
一方で、外からの騒音に対する防音対策は、「遮音」や「吸音」を併用した防音対策があり、「防振」「制振」による防音対策は効果が薄く、また多額の費用が掛かります。
「吸音」、「遮音」、「防振」、「制振」と似たような言葉なので、これらの防音対策の違いについて説明します。
音の発生
「吸音」、「遮音」、「防振」、「制振」の違いは、音の発生メカニズムを知ると理解しやすいです。 音は物体の振動によって発生します。この振動は、物体の周囲にある空気の分子を押し出したり引き戻したりすることで、周囲の空気に圧力変動を引き起こします。これが音波の始まりです。
- 楽器の弦
ギターの弦がはじかれると、弦が振動し、その周囲の空気分子を押し出したり引き戻したりして音波を発生させます。 - 声帯
人の声は、声帯が振動することによって発生し、その振動が空気を動かして音波を作り出します。
媒質の影響
音波の伝播は、音が通る媒質(空気、水、金属など)の性質に依存します。音は媒質の分子が振動することで伝わるため、媒質の密度や弾性率が音の速さに影響を与えます。金属中の音波は空気中の音波の約17倍の速さで伝わります。
- 空気中
音は約343メートル毎秒(20°Cで)で伝わります。 - 水中
水中では音は空気よりも速く伝わり、約1480メートル毎秒です。これは、水が空気よりも密度が高く、分子同士がより密接に接触しているためです。 - 固体(例えば、金属)
固体中では、音の速度はさらに速く、鉄では約5960メートル毎秒です。
空気伝播音(くうきでんぱおん)とは
空気伝播音は、音が空気を媒介して伝わる音のことを指します。これは、私たちが日常的に聞く音のほとんどがこのタイプに該当します。
- 媒質
空気を通じて伝わる音 - 例
人の声、音楽、動物の鳴き声、車の音など - 速度
空気中での音の速度は、温度や湿度などに影響されますが、約343メートル毎秒(20°Cで)です。 - 減衰
空気は音波をある程度減衰させます。距離が離れるにつれて音が弱くなるのは、空気中でのエネルギー損失が原因です。
空気伝播音の防音対策
空気伝播音は、音波が空気を介して伝わるため、音の通り道を遮断することが主な防音対策となります。主に壁やドア、窓から音が漏れるため、これらの部分を強化することが効果的です。
- 厚い壁の設置
厚みのある壁は音を遮る力が強く、音が通り抜けにくくなります。特に多層構造の壁(例えば、石膏ボードの間に吸音材を挟むなど)は効果的です。 - 防音ドア
密閉性が高く、音を通しにくい素材で作られたドアを使用します。ドアの隙間も専用の防音シールやパッキンでしっかりと塞ぐことが重要です。 - 防音窓
複層ガラスや防音ガラスを使用することで、窓からの音の出入りを減らします。また、窓枠の隙間を埋めることも効果的です。 - 吸音材の使用
部屋の壁や天井、床に吸音材(吸音パネル、カーテン、カーペットなど)を使用することで、室内での音の反響を減らし、音が外部に漏れるのを防ぎます。 - シーリング
ドアや窓の隙間、壁と床の接合部など、音が漏れやすい箇所をシーリング材で密閉します
固体伝播音(こたいでんぱおん)とは
固体伝播音は、音が固体を媒介して伝わる音のことを指します。固体伝播音は、建物の壁や床、金属などの固体を通じて音が伝わる際に発生します。
- 媒質
固体(例えば、壁、床、金属、木材など)を通じて伝わる音。 - 例
隣の部屋の音、振動を伴う機械の音、建物を伝わる足音、地震波など。 - 速度
固体中での音の速度は、空気中よりも速く、固体の種類によって異なります。例えば、鉄では約5960メートル毎秒、コンクリートでは約4000メートル毎秒です。 - 減衰
固体は音を効率よく伝えるため、固体伝播音は長い距離を減衰しにくく伝わります。
固体伝播音の防音対策
固体伝播音は、音が固体(壁や床など)を介して伝わるため、振動を抑えることが防音の鍵となります。固体伝播音の対策では、音が伝わる経路を遮断するだけでなく、振動を吸収・減衰させる材料や方法が求められます。
- 制振材の使用
振動を吸収して減衰させる制振材(制振シートや制振パッドなど)を壁や床に使用します。これにより、振動が伝わりにくくなり、固体伝播音が軽減されます。 - 浮き床構造
床と建物の構造との間に防振材を挟んで、音の伝播を遮断する方法です。これにより、床を通じて伝わる音が他の部分に伝わりにくくなります。 - 防振ゴムの使用
機械類の下に防振ゴムを置くことで、機械の振動が床や壁に直接伝わらないようにします。これにより、振動音が減少します。 - 二重壁構造
壁を二重にし、その間に空気層や吸音材を挟むことで、振動が外壁に伝わりにくくなります。 - 振動を抑える家具配置
大型家具(本棚やキャビネットなど)を壁際に配置することで、振動を分散させて減衰させる効果があります。
「吸音」、「遮音」、「防振」、「制振」の違い
空気伝播音は「吸音」、「遮音」で騒音対策を、固体伝播音は「防振」、「制振」での防音対策をすることが効果的です。
吸音 (きゅうおん)
吸音は、音波を吸収して反射を抑え、室内の残響やエコーを減少させることを指します。吸音材は音波を吸収し、そのエネルギーを熱に変換することで音を消散させます。吸音は、音の質を向上させたい場合や、室内での反響を減らしたい場合に使用されます。代表的な吸音材には、吸音パネルやフォーム、カーペットなどがあります。
- 扉、窓の隙間からの騒音防止
- 室内の騒音レベルの低減
- 会議室内の反響音防止
- オンライン会議のハウリング防止
- オーディオルーム、シアタールームの反響音防止
遮音 (しゃおん)
遮音は、音がある空間から別の空間へ伝わるのを防ぐことを指します。遮音材は音を通しにくい性質を持ち、音波の透過を防ぐ役割を果たします。たとえば、遮音壁や遮音ドアは、音が外部から内部へ、または内部から外部へ漏れないようにするための対策です。
- オフィス内の音漏れ防止
- ピアノ室の音漏れ防止
- スタジオ内の音漏れ防止
- 近隣への音漏れ防止
- 外部からの騒音防止
防振 (ぼうしん)
防振は、振動が伝わるのを防ぐことを指します。防振材は振動を吸収し、そのエネルギーを減衰させることで、振動が構造物や機器を通じて伝わるのを防ぎます。これにより、振動による音の発生や構造物への影響を最小限に抑えることができます。防振ゴムや防振パッドがよく使われる防振材です。
- マンションの階下への振動音の低減
- 洗濯機の振動音防止
- モーター音などの低音の低減
制振 (せいしん)
制振は、振動そのものを抑えることを目的としています。制振材は振動を吸収し、そのエネルギーを熱などの別のエネルギーに変換して、振動の発生や伝播を抑制します。制振は特に振動が大きく影響を及ぼす場合に重要で、制振シートや制振ダンパーなどが制振対策に使用されます。
- 洗濯機カバーなどの振動音低減
- 金属のビビリ音低減
まとめ
音の発生源によって防音対策は異なります。 間違った防音対策をすると、防音効果は期待出来ませんので、音の発生源に合わせた適切な防音対策をしましょう。
- 音
音波を吸収して反響を抑え、室内音の質を改善する。 - 遮音
音の透過を防ぎ、音が空間間を移動するのを防ぐ。 - 防振
振動が構造物や機器を通して伝わるのを防ぐ。 - 制振
振動そのものを抑え、振動の発生や伝播を抑制する。リスト